<06年度国際法第2部受講者の質問と応答>06年7月24日
質問内容が、なぜだか国家責任に集中しておりました。
◆<管轄権>
Q「主権と管轄権の関係が、まだ理解不足と感じています。あそこが一番難しかったです。(1部とまたがっていますが....)」
T:え〜、またがっているというか、私の講義では国際法第1部の範囲です。安心して国際法第2部の試験に臨んで下さい。
「関係」というのは様々に語ることができようかと思いますが、1つの説明は、管轄権を主権の具体化と捉えることで、これによって、単に主権といっておしまいにするのではないことで、“主権の衝突”をより具体的に説明できるかと思います。もっとも、どちらの言葉を使うかについて、背景には国際社会における法の支配を強調して一体的に把握するのか、主権国家体系を強調して原子論的構造を強調するか、世界観の対立があります。
ですから、管轄権の域外適用などの論点を解説していても、「主権」が顔をのぞかせるわけです。
◆<国際責任>
Q「国家の責任の成立要件が難しめだったので、刑法の復習をした方がいいですか?」
T:そんなことはありません。刑法の復習は、直接には役立たないでしょう。刑法だと「帰属」の論点が出てこないかと思います。刑法を勉強して頭が良くなって、その後で国際法を勉強するとよく分かるという間接的な効能は期待できますが。法分野では、むしろ、不法行為の方が近いでしょう。
いずれにしても、国際法が国内法の類推で出来上がってきたのは事実ですが、やはり独自の論点があります。
Q「大変抽象的で申し訳ないのですが、国家責任の分野の論点がぐちゃぐちゃしていて頭の中で混乱しています。スッキリさせてください。」
T:補講時最終日に簡単に触れたように、成立要件、効果、追及に関して、まずは全体を見通すことが大切です。その上で、成立要件については、ILC条文草案に沿いつつ、@帰属、A違法行為を考え、その上でB過失が要件となるかどうかというのが大まかな流れです。これで、スッキリして下さい。
Q「第1次ルール」
T:質問内容が、キラーパスでよく分かりません。起草過程で、なぜアゴーがそのような方針転換をしなくてはいけなかったのかを考えると、その位置づけもよく分かろうかと思います。レジュメ(5)p.3付近を参照して下さい。
Q「国家責任の要件における結果責任主義と過失責任主義の理論の整理」
「結果責任主義のところで、ILCの議論が過度に演繹的、理論的であるというところがよく分かりません」
T:まずは、結果責任主義と過失責任主義の対立が、国家責任の成立にとって“過失”が必要となるかどうかの論点であることを確認してください。帰属と違法行為の他に“過失”を必要とするのが過失責任主義、帰属と違法行為で足りるとするのが結果責任主義です。
責任の成立を認めるための要件が少ないということは、多い方よりもそれぞれの要件の果たす役割が大きくなると考えられます。ここでは、結果責任主義が要件としての「違法行為」により多くの役割が必要となります。
また、伝統的には「過失」の要件は認められてきて、授業でも説明したようにそのような判例もあります。とすると、論理的に考えていって、過失が果たしてきた役割が違法行為の要件で説明できるという考えは、(過失責任主義からすると)、従来の議論・判例を「〜〜〜のように説明できる」として議論を展開したものであって、素材そのものから出発したわけではない、演繹的にすぎるということになります。
もちろん、そのような過失責任主義による批判が正しいかどうかは別問題です。
Q「erga omnesな義務、対世的義務といった概念の整理」
T:これもまた大ざっぱな質問ですね。ここでは書き切れません。
国際法第1部のユス・コーゲンスの説明、ユス・コーゲンスの限界から始まる壮大な主題でした。
こと、erga omnesな義務概念だけに絞ると、国際法第2部では
国家責任法:レジュメ(5)で「国家の国際犯罪」削除の経緯、レジュメ(7)p.4以下(レジュメには載っていませんが、授業で説明した2001年草案第42条と第48条の話も)、
裁判の出訴:レジュメ(10)原告適格拡大の可能性
また、最後の授業で採り上げた(パレスティナ占領地域における壁構築の法的効果事件勧告的意見、レジュメ(16))も関係していますので、復習しておいて下さい。他にもあったかも知れません。『国際関係法辞典』(国際法学会編、三省堂)等でも調べてみて下さい。
<その他>
Q「“衡平”という概念がよく分からない」
T:ええ、よく分からないですね。私もよく分かりません。だからではありませんが、授業でもあまり触れていなかったと思いますが。
国際法第1部で、ヤン・マイエン島事件判決(『資料集』175頁以下)をとりあげていますので、その事例を復習すると、だいたいの「感覚に近いもの」を学べると思います。あと、基本的には、英米法の概念で、そちらの復習(ないし予習)をすると良いでしょう。国際法には各種の国内法の概念が入り込んできていますが、こと「衡平」は、それが登場したイギリス法上のコンテクストを理解すると、理解が深まると思います。